DOI: 10.1002/jja2.13013 ISSN: 1883-3772
腹部コンパートメント症候群に対する白線筋膜切開術(linea alba fasciotomy)の有用性(Treatment of abdominal compartment syndrome via linea alba fasciotomy)
山路 文範, 福田 哲也, 岡田 英志要旨
腹部コンパートメント症候群(ACS)は,腹腔内圧(IAP)の上昇(IAP > 20mmHg)により新たな臓器障害を引き起こす病態であり,早急な対応が求められる。当院では,従来の開腹減圧術に代わる低侵襲な手法として,白線筋膜切開術(linea alba fasciotomy: LAF)を施行し,良好な結果を得た。症例1は,42歳女性の重症急性膵炎によるprimary ACSで,IAPが52mmHgに達し,LAF施行後にIAPは21mmHgまで低下し,9日目に閉創した。症例2は,27歳男性の糖尿病ケトアシドーシスによるsecondary ACSで,IAPが49mmHgに上昇し,LAF施行後にIAPは20mmHgまで低下した。症例3は,49歳女性の軽微な外傷による後腹膜血腫を伴うprimary ACSで,IAPが28mmHgに上昇し,経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)後にLAFを施行し,IAPは8mmHgまで低下した。LAFは,腹膜を開放せずに白線を切開することで,腹腔内圧を効果的に低下させる手技であり,ICUでも施行可能で,術後の管理も容易である。当院での施行例では,IAPが約20~30mmHg低下する効果が認められた。LAFは,開腹に伴う合併症を回避できる低侵襲な外科的腹部減圧術として,ACS治療の第一選択となりうると考えられる。