DOI: 10.1002/jja2.12828 ISSN: 1883-3772

セルトラリンの大量内服により急性薬剤性肺障害を生じた1例(Drug–induced lung injury caused by sertraline overdose: a case report)

栁内 愛, 後藤 縁, 田中 太郎, 北川 喜己

要旨

セルトラリンは選択的セロトニン再取り込み阻害薬の一つでうつ病の治療に用いられる。我々はセルトラリンの大量内服により急性薬剤性肺障害を生じた症例を経験した。セルトラリンの添付文書に肺障害の記載はなく,本邦での報告もない。症例は36歳の女性。既往はうつ病。自殺目的でセルトラリン100mgを100錠服用し搬送された。来院時,血圧 119/79mmHg,脈拍 96/分,呼吸数 22/分,SpO2 96%,Glasgow coma scale E3V4M6。検査上特異的な異常はなく,急性薬物中毒として入院した。第2病日に発熱,第5病日にSpO2低下を生じ,胸部単純CTで両側全肺野のすりガラス影を認めた。気管支肺胞洗浄液は血性で好中球優位であり肺胞出血を示唆した。膠原病肺を念頭にメチルプレドニゾロン(mPSL)60mg/日を開始したところ,一時的に呼吸状態が改善した。同時にセルトラリンによる薬剤性肺炎も疑いDLSTを提出したが,頻度の低さと中止に伴う離脱症候群などのリスクを考慮し,内服は継続した。第17病日に再び呼吸状態が悪化し,胸部CT上,びまん性肺胞傷害および縦隔気腫・気胸を認めた。DLSTが陽性と判明したため薬剤性肺障害と診断し,薬剤中止とmPSLパルスを施行したところ奏功し,退院に至った。稀だが重症な薬剤性肺障害の原因としてセルトラリンを念頭におくことは,早期診断・治療につながる。

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